大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 昭和40年(手ワ)93号 判決

原告 滝建設こと 滝敏雄

被告 静岡大朋観光開発有限会社

主文

被告は原告に対し金三三万円及び内金一五万円につき昭和四〇年五月一日以降、内金一八万円につき同年六月一日以降各完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

〈原告の主張〉

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として被告は原告に対し(一)額面金一五万円、支払期日昭和四〇年四月三〇日支払地・振出地共に静岡市、支払場所静清信用金庫安東支店(二)額面金一八万円、支払期日昭和四〇年五月三一日、支払地・振出地、支払場所共右(一)に同じの約束手形二通を昭和四〇年二月一六日振出し原告はその所持人である。

そこで、原告は支払期日に支払場所で右手形を呈示してその支払を求めたが、拒絶されたので右手形金額合計金三三万円及び内金一五万円につき支払期日の翌日である昭和四〇年五月一日以降、内金一八万円につき同年六月一日以降完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による利息の支払を求めた。

被告の主張に対し、仮りに、本件手形の振出当時被告会社の代表者は平野通夫と他一名の共同代表であり、右平野が権限踰越して本件手形を振出したとしても原告は右共同代表の事実を知らず、本件手形の振出行為をなしたる代表取締役平野通夫に権限ありと信ずるにつき正当な理由を有するものである。

仮りにそうではないとしても、共同代表取締役の一人が単独代表と認められるような名称を付して本件手形の振出行為をした場合には被告会社は商法第二六二条所定の表見代表取締役の行為につき責任があると述べた。

〈被告の答弁〉

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、答弁として、本件手形振出の当時被告会社の代表者は石山光雄、平野通夫両名の共同代表とされていたから、平野通夫単独で振出した本件手形は被告会社の振出し手形としては無効である。

また、かかる共同代表取締役の一人がなした行為については民法の表見代理の成立する余地はない。けだし、そう解しなければ、共同代表の定めを登記することが無意味に帰するからであり、従って商法第二二条の表見代表取締役の行為に対する会社の責任も生じないと述べた。

証拠として、原告訴訟代理人は甲第一、第二号証の各一、二を提出し、原告本人尋問の結果を採用し、被告訴訟代理人は乙第一号証を提出し、甲第一、第二号証の各二の成立を認め、その余の成立を否認すると述べた。

理由

原告本人尋問の結果によると、原告は焼津市所在の被告会社大朋会館事務所において代表取締役平野通夫より本件約束手形二通(甲第一、二号証の各一)の振出交付を受けたことが認められ、右甲第一、二号証の各一によると、右各手形面には被告会社の表示並びに被告会社代表取締役平野通夫の記名、押印がなされていることが明認せられ、他方、その方式及び趣旨により真正に成立した公文書と認むべき乙第一号証(登記簿謄本)によると本件手形振出日の昭和四〇年二月一六日当時には被告会社の代表者は代表取締役石山光雄同平野通夫両名の共同代表たることが定められていたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そこで、共同代表の定めある場合には単独の代表取締役のみにては本来有効に会社を代表し、或いは手形行為の如き対外行為もなし得ない筋合であるところ、原告は前記平野についての表見代理を主張し、被告は共同代表の定めは登記事項であり、かかる場合表見代表適用の余地はない旨争うので、この点につき検討する。

原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、原告が前記平野より本件各手形の振出交付を受けた際に、共同代表の定めを知らず、右手形振出につき権限ありと信じていたことが認められ、故にこれを覆すに足る証拠はない。

しかして、会社に関する登記事項で現に登記がなされた事項については、たとえ取引の相手方において当該事項につき善意であったとしても、その者がこれを知らざるにつき正当事由の存する場合でなければ救済されない(商法第一二条)のであり、本件における被告会社の共同代表取締役の定めも登記事項であることは明らかであるが、前掲乙第一号証、並びに当裁判所に顕著な事実によると被告会社では一時的にではあるが、平野通夫が擅しいままに昭和四〇年二月一日の社員総会において代表取締役石山光雄、同平野通夫の共同代表の定めが取消され、同日新たに代表取締役として平野通夫を選任する旨の決議がなされたとして同月一五日その旨の登記をなしたところ、同決議は後に当裁判所において右決議不存在確認の判決がなされ、同登記も同年八月四日抹消せられた経緯があり、本件各手形はあたかも右平野の単独代表の登記がなされていた期間中の昭和四〇年二月一六日に同人より、被告会社代表取締役平野通夫」の名のもとに振出交付せられたものであること明らかであるから、登記の公示力に関する前記被告の主張は採用するに由ない。

してみると、原告が各被告会社の代表取締役平野通夫より本件各手形の振出交付を受けた際、同人にその権限ありと信ずるについて正当の事由ありといわざるを得ない。

よって、被告会社は本件各手形の支払義務があるから、被告は原告に対し右手形金合計三三万円及び(一)手形金一五万円につき支払期日の翌日である昭和四〇年五月一日以降(二)手形金一八万円につき同じく同年六月一日以降各完済まで手形法所定の年六分の割合による利息の支払義務があるので、原告の本訴請求は正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第二項本文を各適用して主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例